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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)8056号 判決

事実

原告(日本運送株式会社)は、昭和二十九年六月十九日に被告(吉田)が原告に宛てて振出した(一)金額五万円、満期同年十月二十日、支払地東京都中央区、支払場所富士銀行蠣殻町支店、振出地東京都江東区、(二)金額五万円、満期同年十二月三十一日、支払地、振出地共に東京都、支払場所富士銀行蠣殼町支店、(三)金額六万円、満期昭和三十年三月三十日、その他の要件は右(二)と同じ、(四)金額七万円、満期昭和三十年六月三十日、その他の要件は右(二)と同じ約束手形各一通を現に所持している者であるが、被告は右(一)の手形金の内の二万円を弁済したのみでその余の弁済をしないから、(一)の手形金残金及び(二)、(三)、(四)の手形金合計二十一万円とこれに対する年六分の割合による損害金の支払を求めると述べた。

被告は、本件(二)乃至(四)の手形には支払地及び振出地の記載として国の最小行政区劃の表示がないから無効であり、従つて被告にその支払義務はないと答弁した。

理由

原告主張の(二)、乃至(四)、の手形には任意的記載として「支払場所富士銀行蠣殻町支店」とあるが、支払場所の記載は支払地の地域内で手形金支払のなされるべき場所を特定し、手形所持人の権利行使を簡明にする目的でなされるものであつて、前者は後者を補充する関係にあるものであるから、右各手形について支払地を「東京都」とする記載があり、更に支払場所としてその都内中央区にある前記支店名の記載がなされている以上、右各手形は支払地の記載については少しも欠けるところはないと解するのが相当である。又振出地を「東京都」とのみ記載したことについても、振出人の名称に「東京都江東区深川海辺町五番地」と附記されていることから、右各手形の振出地は手形法第七十六条第四項によりこの名称附記地とみなされる。従つて右各手形は振出地の記載においても何ら欠けるところはないものといわなければならないから、被告の主張はいずれも理由がなく、原告の本訴請求は正当であるとしてこれを認容した。

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